医学部の受験を考えたことがある人ならば一度は聞いたことがある「地域枠」と言う言葉、意外と詳しいことは知らない人が多いかもしれません。地域枠入試のある医学部を受験しようとしている人たちは、「地域枠」とはどのような入試制度なのか、「一般枠」との違いは何か、地域枠で入学した場合に一般枠の学生との差はあるのか、など様々な疑問や不安を持っているかと思います。
今回は、医学部入試における「地域枠」を解説していきます。
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医学部入試における「地域枠」と「一般枠」とは?
医学部の入試における「地域枠」には主に2つの入試方式があります。1つは自己推薦入試と呼ばれる「AO入試」です。これは学校長からの推薦などが無くても応募可能な入試形態とされています。(大学によって細かい応募規定は異なります。)2つ目は推薦入試で、学校長からの推薦状を持って応募する入試形態です。学校ごとに○名までという人数制限が設けられているため、校内で選抜が行われることが多いようです。
また、実際に大学で行われる地域枠の選抜は、通常の筆記試験ではなく、グループ討論や模擬講義を受けた上でのペーパーテストなどが行われることがあります。試験形態は非常にバリエーション豊かで、センター試験の受験を課していることもありますが、センター試験の受験前に合否が決まる大学もあり、一般的な大学受験勉強はせずに、医学部に入学することも可能になっています。
僻地の医師不足を解消するために作られた地域枠
医学部入試における地域枠とは、一口に言えば「卒業後は大学がある地域の僻地で臨床医として働くことを約束して入学する」枠です。日本のほとんどは僻地であり、僻地の医師は非常に不足しています。つまり、日本のほとんどの地域が医師不足なのです。これを解決するべく厚生労働省が打ち出した方策が「地域枠」なのです。
募集要項には「地域医療ができる医師を育成する」などと書かれていることが多いですが、要は「首輪つき」で医師不足の地域に派遣できる人材を募集しているということです。勤務地は過疎地域であることが多く、また進む診療科も医師不足の科に限定されていることもあります。
地域枠のメリットと一般枠との違い
多くの地域枠では授業料全額免除や生活費として毎月数万円を給付し、卒後に決められた年数(これを「義務年限」といいます)を僻地で勤務すればそれらのお金は返還免除という形態を取っています。義務年限は大学によって様々ですが、ほとんどは9年から12年に設定されています。
義務年限があり卒後の勤務地や希望する診療科にも制限がありますが、経済事情によって普通であれば医学部に進学することが難しい家庭の人であっても、奨学金と言う形で金銭的な心配なく勉強することができる、というメリットはあります。
これに対して一般枠は、そのような制限はなく、通常のセンター試験と大学ごとの筆記試験と面接試験で合否が決まります。奨学金などの給付を希望する場合は個別で探すことになります。
医学部入試における「地域枠」の問題点
昨今、医学部入試における「地域枠」は様々な面から問題視されています。一体何が問題となっているのでしょうか。
2017年度末、国立弘前大学の卒業生で初期研修(卒後2年間の義務研修)を終える医師が、地域枠入試で卒業したにも関わらず、後期研修として県外の病院を選んだことで、弘前大学からその研修先病院へ「善処」を求め、研修先の変更や青森県への就職を誓約させるという事件が起きました。
この事件の最大の問題点は「誓約書を提出して地域枠として入学していること」「弘前大学の地域枠には入学後に地域枠を辞退するシステムがないこと」です。弘前大医学部は地域枠の学生に対して奨学金や授業料免除などの「メリット」を提示していません。つまり、「地域枠の義務とは何か」「一般枠との違いは何か」という曖昧さが浮き彫りになった事件でした。
さらに弘前大学では、別の年の6年次の地域枠の学生に対して、初期研修先が大学指定病院でないと言う理由で卒業認定を取り消した、という事件もありました。
卒後の勤務先や進路を制限することは、大学(文部科学省の管轄)と病院(厚生労働省の管轄)という全く管轄の異なる組織間の利益相反という問題にあたるのではないか、という指摘があり、さらには学生の基本的人権の侵害にあたるという考え方もあります。
また、国立大学医学部の地域枠入試の多くには出身地の制限がなされていることもあり、「国」の大学であるのに特定地域の人を優遇するのは問題ではないか、という声も様々な方面から上がっており、国立大学としての意義も問われています。
様々な問題に直面し決断することが必要
地域枠にまつわる様々な問題は、医学部の受験を考えている人たちにとってはあまり見たくない医学部の闇の部分かもしれません。しかしこれを直視せずに医学部生活を送ることは出来ませんし、ひいては医師として働くことは難しいと思います。
僻地における医師不足は重大な問題です。地方の大学医学部が地域住民に支えられて成り立っていることは紛れもない事実です。しかし、そこに入学してくる学生たちは決して地域貢献の義務があるわけではありません。
いくら厚生労働省が医師確保にやっきになったとしても、実態はどうあれ医学部は教育機関であって、学生にその解決義務はないのです。この問題を解決するにはまだ長い時間がかかると思われます。
ただ、学生たちも黙って耐えているわけではありません。全国の医学部の学生がこの問題を解決するために様々な取り組みを行なっています。
「全国医学部学生連盟(医学連)」という団体は、各大学の医学生が集まり、問題点や大学で困っていることなどを話し合って、年に1回、厚生労働省と文部科学省に赴いて改善を要求する、という活動を行なっています。
ちなみに、現在行われている卒後2年間の初期研修の義務制度は医学連による厚生労働省との交渉によって実現したシステムです。在学中も卒業後も、医学生・医師たちが安心して働けるように、有意義な研鑽を積めるように、と様々な人たちの思いから実現した制度なのです。
地域枠と一般枠のメリット・デメリットをしっかりと理解して選択しよう
現在、医学部の地域枠入試は様々な問題点が取り上げられて、ネガティブな面ばかりがフォーカスされがちですが、決して悪いことばかりではありません。
地方出身の人の中には、自分の生まれ育った地元に根付いて、地域の人達に混ざりながら医療を行う、という働き方を望む人も多いでしょう。そのような人にとっては、地域枠入試は非常に有益な入試方法です。
多くの大学で地域枠の学生は地域医療実習などへ優先的に派遣されたり、学習会の機会などもたくさん与えてもらえます。
一般枠と地域枠との違いをよく理解し、それぞれのメリット・デメリットをきちんと確かめて、自分にとってどちらがより将来に良い影響を与えてくれるのかを考えましょう。
医学部受験の時点でどちらが良いと判断するのは難しいですが、受験生のみなさんが、現在考えられる最良の道を選べることを願っています。
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