少し前にはなりますが、いくつかの病院に労働基準監督署からの是正勧告がありました。またそれに伴い全国の病院で医師の働き方改革が進められています。
実は私の通う大学の大学病院でも働き方改革が進められています。環境が良い方向に変われば全てが良くなる……と思いがちなのですが、残念ながらそういう訳にはいきません。
なぜなら働き方改革を行うことによって、患者さんだけでなく、医師にも良いことだけでなく悪い影響が出てくるためです。
今回は、医学部受験生も知っておくべき『医師の働き方改革』について説明します。
この記事を読むことで、医学部受験生である貴方に対して、将来働き方改革がどのように影響を及ぼすのか、知ることができます。
目次
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医師の働き方改革の今
わたしの親の世代よりももっと前より、医師は『長時間労働』が問題になっていました。私の父も帰ってくるのは2、3日に1回ほどで家の滞在時間は6時間程度と、家に住んでいるのかそれとも病院に住んでいるのかわからないような状況でした。
しかしそれによりうつ病や自殺といった問題が着実に増えていきました。
医療業界とは別の業界での過労からの自殺が発端となり、病院の長時間労働にも遂にメスが入ったというわけです。
それでは現在の医師の労働環境はどうなっているのでしょうか?
今回ご紹介するのはあくまでも一例であり、全ての病院に当てはまるものではありません。あらかじめご了承ください。
労働時間
厚生労働省は医師の時間外労働時間について2024年4月以降は「年間の時間外労働時間を960時間以下」(この上限に収まらない労働が必要な救急医療機関・研修医や高度技能の獲得を目指す医師は特例として1860時間以下)を目指す方向になりました。
また特例の医師に対しては連続勤務時間の制限といった健康確保措置をとる方針を定めました。
病院にもよりますが、現段階でも既に大分勤務時間は融通が利くようになってきました。
女性医師の妊娠や育休、産後の短時間労働や職務の分担など、昔に比べて制度が確立されていっている印象です。
またタイムカードやそれに類したシステムも導入されており、時間外労働時間もしっかりと記録されるようになったため、超過労働は少なくなってきたと言えるでしょう。
しかし時間外労働が0になるか、と言われればそうではなく、患者さんの容態の変化や緊急手術となれば、たとえ真夜中だろうと病院に駆けつけなければいけません。
また医師、特に研修医の方々は勤務以外にも「勉強」のために病院に残っている人が多いです。そのため働き方改革の影響で環境が変わろうとも、実際に病院にいる時間は昔に比べてそれほど変化が無い印象です。
現在の医学部受験生が医師になるころには2024年を過ぎていますから今よりも超過労働は減っているのではないでしょうか。
働きやすさ
上でも述べましたが、妊娠や育休・産休への制度の確立が進み、さらに世代交代によって女性医師への偏見のある医師がリタイアし始めたことで、段々とではありますが循環器外科や救急科のような忙しい外科でも女性医師は増えてきました。
さらには託児施設のある病院も多くなってきたため、小さな子供のいる医師でも安心して仕事に打ち込める環境が多くなってきています。
そのためどんな医師でも質の高い医療を行うことが可能になっています。
給料
昔は「医療現場では残業代はない」という風潮がありました。しかし現在は初期研修医においても残業代をしっかりと支給している病院が増えてきています。
というよりも、時間外労働をしたのであれば手当を出すのは普通のことなので、悪い風潮が無くなってきたと言えるでしょう。
他の医療系職種との関係
昔のテレビドラマなどでは、教授が下の医療職の人々に威張り散らかして自分の言う通りにする、という描写を目にすることもありましたが、現在はほとんどありません。
現在は各々の職種がそれぞれ責任を持って他業種と連携していく「チーム医療」へとシフトしています。医学部受験生も医学部に入ってすぐにそういった授業があります。
決して「医師が全てにおいてトップである」なんてことはあり得ません。
現在では医師が独断で勝手な治療や検査をするのではなく、それぞれの業種の意見を聞き、それらを話し合い尊重することで患者さんにより良い医療を届けるようになっています。
働き方改革の弊害
さて。働き方改革の良いところを話してきました。しかし全てが全てうまくいっている訳ではありません。医療業界からは不満の声が上がっているものまた事実です。
医学部受験生がいずれ医師になった際、必ず直面する問題でもあります。
次に働き方改革の弊害について、私が現役医師から聞いた話も踏まえてお話しします。
勉強のための時間が減っている
基本的には研修などは勤務時間として扱われます。しかし勤務時間が減ることによってそういった研修の時間が減っています。また手術や外来などの勤務時間でしか学ぶことのできない勉強時間も減っている印象です。
勤務時間が減ったとしても残念ながら業務内容や業務量は変わりません。
さらに午後から始まった手術が長引いた際、時間外労働時間が上限に差し掛かっている医師(特に研修医)は手術を途中で抜ける必要があり、その手術で学べるはずだった手技や知識を学ぶことができなくなるのです。
上辺だけ労働時間をクリアしている病院
一部の病院ではタイムカードを押させてから仕事に戻させる、サービス残業が横行しているのもまた事実です。
地方の病院や外科などではそもそも医師が不足しているため、厚生労働省の定める規則をまともに守っていれば仕事が回らない所が多いです。
医学部受験生が将来病院を選ぶ際、サイトに掲載されている医師のスケジュールと実際のスケジュールに差があることも、もしかするとあり得てしまうかもしれません。
1860時間の罠
厚生労働省の定めた規則では一部の病院、医師は特例として時間外労働を年1860時間と定めています。しかしここに罠があります。
一般的に過労死ラインというのは月80時間とされています。単純計算ですが年1860時間を12で割ると月130時間です。実は過労死ラインを突破しています。
もちろん健康確保措置の義務などはありますが、過労死ラインを突破しているとなるとすこし規制が緩いのではないか、という声も上がっています。
患者ファーストの瓦解
医療業界は患者ファーストとして動いていますが、働き方改革が患者ファーストと対立している部分があります。
例えば外来の患者さんは基本的には同じ先生に診てもらっていますが、働き方改革の影響でその外来を休まないといけなくなってしまった結果、患者さんのことをカルテ上でしか知らない他の医師が診察することになってしまいます。
そうなってしまえば、患者さんは不安に駆られてしまうでしょう。
しかし休まないといけない規則がある以上、患者さんに我慢してもらう必要が出てくるのです。
今後の施策について
医師の働き方改革にはやはり現状、上のような問題点が残っています。
そのためには厚生労働省の決めるルールと現場の意見をすり合わせる必要があります。
また医師数をただ増やすだけではなく、地方・都心間の偏在や科の間の偏在を無くす必要があります。
さらには、規則を守らない病院に対して罰則をつける強い姿勢でないと、規則がまともに運用されないでしょう。
現在の医学部受験生が医師になる頃にもこの議論は続いている筈です。そして現在の医学部受験生が将来働く環境にも大きな影響がでる議論です。
決して医学部受験生である貴方も他人事ではありません。
まだまだ医師から遠い医学部受験生である今のうちから、心の隅に留めておいてください。
ちなみに余談になりますが、医学部受験生は小論文の題材として出るかもしれません。一度自分の意見をまとめて置くのも良いかもしれませんね。
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